作家・佐々木譲 東京が舞台では書けなかった(産経新聞)

 【話の肖像画】辺境より(上)

 故郷の北海道を舞台にした警察小説「廃墟に乞う」で第142回直木賞を受賞した佐々木譲さん(59)は、道東の中標津(なかしべつ)町を拠点に執筆を続けている。グローバリズムの時代に、自ら「辺境」と呼ぶ場所にあえて身を置く。厳しい土地で生み出される作品は、地域性を血肉としつつ、多くの人々の胸を貫く力強さを備えている。画一的な東京が舞台では、この作品は書けなかった、と明かしてくれた。(篠原知存)

                   ◇

 −−受賞おめでとうございます

 佐々木 ありがとうございます。あのね、以前に「エトロフ発緊急電」で山本周五郎賞をいただいたとき(平成2年)に「これ受賞すると、直木賞はないですから」って言われてたんですよ(笑)。

 −−えっ、そうだったんですか?

 佐々木 そう。だからずっと僕は資格なしだと思ってた。「警官の血」で(第138回の)候補になったときにびっくりしました。近年は違ってきたみたいですね。(同時受賞の)白石(一文)さんも山本賞をとっておられますし。

 −−受賞作は、休職中の刑事という主人公のキャラクターが印象的でした

 佐々木 じつは主人公の設定は2番目の問題。北海道の地方都市を書き分けてみたいというのが最初にあったんです。そのために、各地の犯罪にかかわることのできる存在を考えました。道警には方面本部があるから難しい。ならば休職中にしてみよう。そういう流れです。

 −−風土を描きたかった?

 佐々木 北海道には、日本のほかの地方とは違う物語がたくさん埋まっている。それだけを書いていこうというわけではないが、目の前に面白い話がある、ならばそれを書きたい。そのひとつとして、それぞれ性格が違う町の話を書きたくなった。

 −−多様性ということですね

 佐々木 (受賞会見で)「プライベート・アイ小説」と言いましたけど、アメリカの私立探偵小説は都市小説です。アメリカの都市は、さまざまな事柄であふれている。人種が違う、階層が違う、価値観が違う。サラダボウルのように。ところが日本では、たとえ東京であっても、1種類の人間しかいませんよね。外国人が増えたといっても、さほどでもない。

 −−ニュアンスはわかります

 佐々木 アメリカならひとつの町で書ける小説が、日本では書けない。でも北海道ならそれに近いことができる。いろんな種類の人々を書ける。そう思ったんです。あれだけ違う町があって、まったく違う価値観で生きてる人がいる。炭鉱の人たち、馬産地の人たち、漁師町の人たち…ほんとうにそれぞれです。

 −−故郷にUターンされたきっかけは何だったんですか

 佐々木 父親の具合が悪くなったので。小説家はどこで仕事をしても融通が利く。最初はニセコに移住しました。

 −−地方で暮らすメリットとデメリットは

 佐々木 誘惑が少ないですから、集中できますよ。長いものを書くときは、集中をある期間継続しなくちゃいけない。東京を離れたことで誘惑に負けずにがんばれてます(笑)。デメリットは…うーん、こういうこと言うとまた敵を作っちゃうかな…地方で名士になっちゃったりすると、また仕事ができなくなる心配もある。だからその点は、偏屈を通してます。イベントの役員だとかそういうことは、頼まれてもやりません。私はここに仕事に来てるので、と。

 −−会見で「辺境」とおっしゃってました。かなり強い言葉でしたね

 佐々木 いやいや、中標津に来られたら、けっして強い言葉ではないと思うはずです。冬はほんとうに命の危険を感じるような場所。地理的にも辺境ですし、これは(生まれ故郷の)夕張もそうなんですが、ああ経済大国の辺境だな、とつくづくおわかりになるはずです。

 −−旅行で訪ねたことはありますが…

 佐々木 よく幹線道路に案内看板が立ってますね。東京であれば「セブンイレブン、次の角左折150メートル」とか。中標津の町に有名な看板があるんです。「ジャスコ、次の角左折150キロ」って(笑)。その間に小さな店がふたつぐらいしかない。こないだパエリア作るのにサフランを切らして、仕方なく150キロ走りました。そういう土地です。辺境って言葉もウソじゃないとわかってもらえますか。

 −−はい、よーく(笑)

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【プロフィル】佐々木譲

 ささき・じょう 昭和25年、北海道夕張市生まれ、59歳。会社勤めをしながら書いた「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞し、作家に。サスペンスや冒険小説、歴史小説などを幅広く執筆。最近は警察小説が相次いで映像化されている。直木賞受賞作の「廃墟に乞(こ)う」(文芸春秋)は、心に傷を負って休職中の刑事が、北海道各地で起きる事件を追う連作集。

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